ァインダーをのぞく真剣な表情。空間や照明を自由に操り、モノというモノに自分の個性を吹き込んでいく−。カメラマンという職業が持つ華やかなイメージに憧れる若者は数知れない。しかし、スタジオに漂う張りつめた空気、近寄りがたいほどの厳しさに触れる機会は決して多くはないはずだ。コマーシャルフォト、いわゆる商業写真の世界に飛び込んで10年余。紆余曲折を経て独立し、現在はスタジオ代表に。

ファイブフォト・スズキの鈴木健司代表に コマーシャルフォト・カメラマンへの道程を語っていただいた。


浜松職業訓練短期大学校(現ポリテクカレッジ)生産機械科を卒業後、精密機械加工を手掛ける企業へ就職。その一年後には同社を退社し、運送会社の配送員に。そんな鈴木さんがカメラマンという仕事に就くことになったのは、ある偶然の出会いがきっかけだった。趣味である自転車の関係で知り合ったカメラマンに「よかったら撮影の仕事をやってみないか?」と誘われたのを機に、市内の老舗撮影スタジオに入社。この偶然の出会いは、その後の鈴木さんの人生を大きく変えた。  入社後、アシスタントとして働き始めた鈴木さんを待っていたのは、ご自身が「何度も辞めることを考えた」と語るほどの厳しい毎日。例えば、ホリゾントと呼ばれる撮影用の床と壁。撮影の度に汚れてしまうこのホリゾントをペンキで塗り直すことが、アシスタントとしての鈴木さんにとって最初の仕事だった。また、照明スタンド一つをとっても相当な種類がある撮影用機材。その全てを頭に入れるためには、少なくとも数ヶ月間の期間を要したという。「高校時代は写真部に所属していましたが、現場の知識は全くゼロの状態。写真関係の専門学校を卒業した同僚と比較されて、何度も悔しい思いをしましたね」。

 

フィルムを触れるようになったのは入社して3ヶ月後。それもホルダーにフィルムを充填する練習のためだけに−である。3ヶ月間の練習を経てようやく自分が充填したフィルムを撮影に使ってもらえるようになったものの、日々は相変わらず床塗り、撮影の準備と片づけ、そしてフィルムの充填という作業の繰り返し。入社して1年が過ぎ、鈴木さんは独立する先輩カメラマンと共に同スタジオを退社することになる。その間、スナップの撮影や先輩カメラマンがセットしたカメラのシャッターを切る以外、撮影に携わる機会はただの一度さえもなかった。  スタジオを辞めたものの、先輩の口から出た言葉は「お前の給料は払えない。しばらく写真館で働いてくれないか?」。そこに選択の余地はなかった。写真館の主業務である集合写真や証明写真の撮影に明け暮れるうちに、自分は本当にカメラマンになれるのか−という思いが何度となく頭をよぎる。しかし、カメラマンへの道のりは、まだ遠かった…。

 

1年後、再び先輩のスタジオへ戻ることになった鈴木さんに与えられた仕事はやはりアシスタント、そして営業だった。つまり、自分の給料は自分で稼げ−ということである。「企業、広告代理店、印刷屋、デザイン事務所などを対象に飛び込みの営業。どうすれば相手に自分を選んでもらえるのか−これを知る上でも貴重な経験でした」。その後、徐々にではあるが撮影を任されるようになり、平成5年10月、『ファイブフォト・スズキ』としてようやく独立の時を迎えた。  「先輩方に恵まれました。辛い時に我慢できたのは先輩の『お前だったらカメラマンになれるよ』という言葉のおかげ」とアシスタント時代を振り返る鈴木代表。レンタルのスタジオと最小限の機材というスタートから現在に至るまで順調に推移し、独立から7年目を迎える今では専用スタジオを構えるまでに成長を遂げた。

 

「コマーシャルフォトは質感や形、色など、いかにクライアント側のイメージに合う写真が撮れるか−が重要。決して好きなものを、好きなように撮っているわけではないんです」と鈴木さん。カメラマンとしての喜びを問えば、「もちろん、クライアントが喜んでくれること」との答え。この答えにこそ、自己表現を目的とする芸術写真とは一線を画す商業写真の本質を見出すことができるだろう。  

 「業界ではまだまだ若手で、知名度も低い。それでも、良いものを撮れる自信はあります」と言い切る鈴木さん。技術、センス、そして責任感。アシスタント時代から築いてきたこれらの要素全てが揃った時、初めてカメラマンとしての自信が生まれる。「それでも、未だに写真が出来上がるまでは怖い。この怖さは今後もなくならないでしょうね」。カメラマンである以上、撮影のプロとして良い写真を撮る自信は絶対に必要。しかし、この“怖さ”を感じるかどうかが、本当に優秀なコマーシャルフォト・カメラマンか否かの判断基準であるのかもしれない−。

ファイブフォトスズキ
浜松市本郷町1360-3
Tel.053-466-2144
E-mail 5photo@habi.ne.jp

第5回吉筋恵治作陶展
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