『HPは今や名刺と同じツール。
前向きにやらなきゃいかんでしょ。』

T-REPCS 福 田 宗 司


福 田 宗 司
浜松市出身。東京都内の有名スタジオ数店を経て浜松で『T-REPcs』をオープン。その間、パリやニューヨークでの研修を重ね、ドライカット技術におけるクオリティの高さは国内トップクラス。昨秋にはヘアデザイナーとしてニューヨークコレクションにも参加した実績を持つ。タマリス・カット講師をはじめ、インストラクターとしての経験も豊富。クリストフ・ロバン認定ヘアカラーリスト。
http://www.t-repcs.com/

 

似合わないスタイルは売らない   『無愛想』の本当の理由

 浜松市の美容室『T-REPcs』のオーナーでヘアデザイナーの福田宗司さんに会った。美容師としてサロンワークをこなす一方、カット講師やヘアデザイナーとしても活動。昨年はニューヨーク・コレクションにヘアデザイナーとして参加している。これまでに色々な美容師さんとお話しする機会があったが、福田さんの第一印象はかなり異質。どちらかと言えば無愛想で口数も少なく、美容師というよりは職人という感じ。「この人、お客さんの前では笑顔を見せるのかな?」なんて余計な心配をしてしまうほど、今まであった美容師さんに対するイメージとは違う雰囲気だ。  もともとはロックミュージシャン志望で、「真剣にプロを目指していた」というほど。二十歳で浜松を離れて上京したのもプロのミュージシャンになるためだった。ところが、結局二年後には浜松へ帰ることに。「メンバーの一人が就職を考え始めたんだ。夢が叶わなかった時のために保険をかけようってことなんだけど、俺にはショックだった。結果的には俺自身も他の道を選んだけどね」。  浜松へ戻った福田さんは、ミュージシャンではなく『美容師』を目指していた。「高校時代のアルバイト先が美容室だったから慣れていたし、意外と面白そうかなって。ただそれだけ」。市内のサロンに通いながら美容学校を卒業し、二十四歳で再び東京へ。かの有名なビダル・サスーンのチームで華麗なる再スタートをきったはずが、またもや波乱。講師と意見が合わずチームを辞めてしまったのだ。「今ではベーシックを教えてくれた講師に感謝してるよ。でも、当時はサスーンのスタイルだけを守るのが苦痛でね。俺にとってのヘアデザインは音楽と一緒。自分が作ったイメージを大切にしたかったんだ」。

●乾かして切るだけじゃない

 その後、有名サロン『アレス』(当時は原宿にあった)を経て『マニアティス』へ。ここで出会ったドライカットが、福田さんに大きな影響を与えることになる。パリからやってきたこの新しい技術に興味をひかれ、ニューヨークスタイルのドライカットも修得。「互いに長所と短所があることを知った。だから、自分流の技術を作ってやろうと思った」。それ以来、ドライカットはヘアデザイナー・福田宗司のライフワーク的な存在になった。  最近ではドライカットが流行っているらしく、試しにインターネットの検索サイトで調べると、結果は一万件近い数。「だけど、本物は少ないね。ドライカットは乾かして切るだけじゃない。骨格の凹凸や毛流、髪一本一本の生え方を考えながら切るんだ」。ドライカットは時間がかかるからカネにならない―といわれることもある。それでも思い入れは強く、サロンを構えている今でさえ勉強のためにニューヨークへ渡るそう。「ドライで作ったスタイルは再現性が高いから、髪を洗っても元に戻しやすい。お客さんに喜ばれるスタイルを提供するためにはコレしかないと思う。だから、何をいわれようとやめないよ。当たり前のことでしょう?」。

●黙々と作り上げるスタイル

 「俺たちはヘアスタイルを売るのが仕事。似合わないスタイルを求められれば、いくらお客さんでも『似合いません』とハッキリ言う。最後に満足感を提供できなくちゃ意味が無いから」と福田さん。最終的にはフリーのヘアデザイナーとして海外で活動するのが夢で、そのためにならサロンをたたんでもいいのだという。「でも、自分を信じてくれているスタッフやお客さんのためには『T-REPcs』をブランド化したいとも思ってる。もちろんドライカットでね(笑)」。ずいぶんと長いこと話し込んだ後、福田さんが結構笑っていることに気付いた。この人、髪を切っている時の方が笑わないんだろうな、きっと。